「ちょっとトイレをお借りします。」
イケメン店長の話しが一段落したところで、私は用を足しに部屋を出た。
小用もさることながら、、重要な結論を出す前にちょっと店内を見たくなったのだ。
案内されたトイレは広かった。
人がやっと一人立っていられるほどのヤマキのトイレの何倍もある。
それに住宅屋だけあって、正面にはモダンな洗面台と大きな鏡、左手奥にウォシュレット付きの便座。
最近リフォームしたのか、、明るい基調の壁面のクロスもまだ新しい。
トイレを出ると、店長に断って左手奥の事務スペースを見せてもらった。
スタッフの連中は何となくやりにくそうにしていたが、、、遠慮なく奥まで進む。
「ゴトゴトゴト、、。」
店頭より少し高くなった事務スペースの床で響く足音。
おそらくパソコンの配線を通す為にコンクリの上に床を張って一段高くしてあるのだろうが、、、これはまずい。
こんな上に旋盤やなんかを置いたら、振動が出て仕事にならないだろう。
気になるところは、他にもいくらかあった。
店頭と事務スペースとの間には、「〇〇ホーム」 と書いた結構な大きさのオブジェ(?)のようなものがあるのだが、これはコンクリの床の上に直付けしてあるとのことで撤去するには土台から壊す必要がありそうだし、廃棄するにもそれなりの費用が掛かりそう。
加えてさっきまで店長と話しをしていた小部屋も店頭のスペースを半端に分断しているから、うちには要らない。
全体的に内装も造作も綺麗でそのまま使える部分が多いが、、、やはり新規開店するとなると、それなりに掛かりそうだ。
一通り店内を見て回った私は小部屋に戻り、再び店長と向かい合った。
2杯目のコーヒーをいただきながら、いよいよ詰めの話し。
お互い基本的な希望は一致しているが、細かい部分では擦り合わせが必要だ。
店長としては、現状の内装をそのままに退室したい。
私の方も内装が出来ているのは有難いが、、一方で、明らかに撤去せざるを得ないものがかなりあることも判ったから、、そこを伝えた。
「んー、、。」
2人とも腕組みをしたまま、、、しばしの沈黙。
「分かりました。 それじゃあ、こういうことでどうでしょう?」
先に沈黙を破ったのは、店長の方だった。
「貴方の方からすると、この小部屋やあのオブジェは邪魔でしょう。 床の問題もあるようですし。 でもうちは出来る限りこのまま出たい。 移転までそう時間も無いですし、その前に終わらせなければいけない仕事も多いから、作業をしている暇はないんです。」
「確かに、そうでしょうねー、、。」 と私も頷く。
「撤去作業や残材の処分費用として、¥1,000,000 お支払いしましょう。 その代わり、後のことは全てそちらでしていただくということで、いかがですか?」
渋顔を作っているのも、もう限界だった。
まさに、棚からぼた餅。
何しろついさっきまで新店舗の構想を諦めかけていたのに、、、たった小一時間で、願っても無い話しがここまで進んだのだ!
店長の提案を2つ返事で了承した私は一目散に店に戻り、連中に報告。
「おい、店決まったぞ!! 広くて、路面で、ガラス張りで、最高だよ!」
「マジすか!?」 「おーっ!」 「良かったですねー!」
平成20年。
東村山から移転して7年経っていたパスタイムは、、、こうして現在の吉祥寺本町に移ることに決まったのだった。
(続く)