「回想」 その57
ケースメーカーとの打ち合わせが続く、パスタイムのカスタム腕時計ケースプロジェクト。 幸い問題の 『ラグの角度』 に関しては先方が折れてくれ、全てこちらの希望通りの仕様になったが、、こうなると、残るはお金の話し。 一体、いくらくらいの総費用になるのか? 打ち合わせをここまで進めた挙げ句、「費用的な問題で諦めます」 というのは、有り得ない。...
View Article「回想」 その58
ケースメーカーからFAXされてきた見積り書を、私は何度も見返していた。 そこには、注文する数量が30個の場合、それから100個の場合とあり、それぞれの一個あたりの単価が書かれている。 数が多くなれば単価は下がるのだが、、当然ながら、支払い総額は大きくなる。 既に 『プレス加工と削り出し』 という製作方法で行くことは決めていたから、これ以上、工法的なコストダウンは望めない。...
View Article「回想」 その59
時は、平成18年の秋頃。 カスタム腕時計が完成してから、4年ほどが過ぎていた。 その間店のメンバーに変わりはなく、古株の岩田にタマちゃん、W、Nと紅一点のHon、そして私の6人。 カスタム腕時計の売れ行きは発売当初こそゆっくりだったが、何年か続けるうちに少しずつ支持者が増えてきて、、、気がつけば店の仕事はアンティークウォッチの販売修理が7割、カスタム腕時計の仕事が3割くらいの割合いに。...
View Article「回想」 その60
年が明け、平成19年を迎えた。 イタリア留学が迫ってきたタマちゃんは、出発までに抱えた仕事をこなそうと必死。 これから懐中時計のケース修理は私が何とかするとしても、、、手彫りの文字盤やムーブメントのエングレービングは、一切出来なくなる。 だからお客様の中には 「タマちゃんがいるうちに」 と言うことで、注文を入れてくれる方がいたのだ。...
View Article「回想」 その61
辻本との数日の引き継ぎを終え、タマちゃんはイタリアに発っていった。 しかし辻本は思いの外スムーズに仕事を覚えたから、文字盤やケースの仕事にはさほど穴が開かなかったように思う。 更に一年ほどすると、古参の岩田に加えてWやN、それから紅一点のHONらも明らかに力を付けてきて、全体としての戦力は上昇。...
View Article「回想」 その62
翌日から、私は連日不動産屋回りを続けた。 パスタイムの入っているヤマキビルを仲介してくれた 「しらいし」 を始め、駅周辺の不動産屋をしらみ潰し。 しかしヤマキの若旦那の言う通り50坪以上の貸し店舗は少ないし、有れば大概はチェーン店の居酒屋やレストラン、100円ショップなどが入っている。 空いているのは、賃料その他の条件が手の届かない物件のみ、と言った感じで、、、どうにも望み薄だった。...
View Article「回想」 その63
「実はですね~、、」 イケメン店長は、私の目を正面から見据えながら話し出した。 何か表に出ていない、特別な物件があるのかもしれない。 そんな期待を持たせる目だった。 「うちは見ての通り住宅販売をやってるんですが、近いところでは杉並にも一店舗あるんですよ。 しかし正直なところ、直近の業績はあまり芳しくない、、。」 「あまり芳しくない。」 というところで、、彼はちょっと声を落とした。...
View Article「回想」 その64
「ちょっとトイレをお借りします。」イケメン店長の話しが一段落したところで、私は用を足しに部屋を出た。 小用もさることながら、、重要な結論を出す前にちょっと店内を見たくなったのだ。 案内されたトイレは広かった。 人がやっと一人立っていられるほどのヤマキのトイレの何倍もある。 それに住宅屋だけあって、正面にはモダンな洗面台と大きな鏡、左手奥にウォシュレット付きの便座。...
View Article「独立秒針の時計」
今週、独立秒針の懐中時計をフルレストアした。 「独立秒針の時計」 と言ってもピンと来る方は余程のマニアだけだろうが、、、簡単に言うと、時計本体を動かすゼンマイ、それに続く一連の歯車に加えて、秒針を動かすためだけのゼンマイと歯車を併せ持った時計のこと。 その多くは、19世紀の中頃~後期にスイスで作られたものて、パテック フィリップやオーデマ...
View Article「回想」 最終回
2008年の夏は、特別に忙しい夏だった。 何はともあれ、まずは銀行から新たな融資を取り付けて、当面の資金を確保。 店の保証金や不動産手数料など諸々入れるとざっと賃料の12ヵ月分、その他ヤマキビルの内装撤去費用、引っ越し費用、新しい店の改装費用、、まだまだ他にも、、。 創業以来2度目の引っ越しだが、毎度のことながら店の移転には思いの外お金が掛かるものだ。...
View Article「3人組」
先週終了した 『回想』 シリーズに関して、ありがたいことに思いの外多くの方から連載の終了を惜しむ声をいただいた。素人の私が記憶のままに綴った駄文ではあるが、「楽しみにしてたのに」 とか 「終わっちゃってつまんなーい」 などど言われると、「いやいや、お恥ずかしい」...
View Article「3人組」 その2
3人組の仕事は、開店準備から始まる。 1年生の二人は、掃除機掛け、ショーケースやウィンドーの時計の陳列、台所の湯沸かし。 3年生の寺田は留守電メッセージや着信メールのチェック、時計の配送手配等。 そういった作業を一通り終え、それぞれ自分が担当している時計の精度を測ったり、ドライバーやピンセットの手入れをしているうちに、開店時間の11時がやってくる。...
View Article「ちょい止まりの時計」
2週間ほど前の朝店に来ると、前日に完成した時計が止まっていた。 整備の完成した時計はその日から 「精度試験」 に入り、時計にもよるが、通常は2週間程度の精度試験を経て納品となる。 つまりその時計は、本来なら今週末あたりに納品になる予定だったのだが、、。 他の時計の精度チェックを済ませた後、早々に手直しに入ることになった。 時計が止まるのには、実に多様な原因がある。...
View Article「模様替え」
昨日から、久しぶりに店の模様替えをしている。 模様替えといっても店全体ではなくて店の半分から奥、つまり岩田と若者3人組の作業スペースの後ろに限定された話しだが、。 なぜ年末に掛けての忙しい時期にそんな陽の目の当たらないところを模様替えするかと言うと、今月、少々大型の工作機械が納入されるからなのだ。 何年か前、岩田が使っているコンピューター制御の超小型フライス盤をご紹介した。...
View Article「バレエ」
「本番3分前ですよ。 2人ともしっかりね」 舞台の控え室で先生が私達に言った。 パートナーの女性はアシスタントに最後の衣装のチェックをさせながら、私の顔色を伺っている。 そう。 実におかしな話しだが、、、私は本業の時計屋の傍ら、趣味でやっているクラッシックバレエの舞台に上がることになったのだ。 「中島さん、大丈夫よ。 自信を持ってやりましょう」...
View Article「過去形」
「メビウスの8ミリ、ソフトパック2つ下さい」 「はい、こちらでよろしかったですか? 画面のタッチをお願いします」 何でもないコンビニでのやり取り。 でもいつもながら、何か引っ掛かる。 引っ掛かるのは 「よろしかったですか?」 どうして過去形なんだろう? 「よろしいですか?」 でいいのに、、。 「プルルルルー、プルルルー」 ポケットの中で鳴り始めた携帯電話を取ると、、...
View Article「年末」
早くも今日は12月8日、土曜日。 今年もいよいよ年末が迫ってきた。 例年9月に入って残暑が納まると、夏好きな私はちょっとしょんぼり。 ちょうどそんな頃市場にはサンマが並びだし、続いて 「戻り鰹」 「秋鮭」 「松茸」 等、美味しいものが目白押しに。 連日安酒場で秋の味覚に舌鼓を打っているうち10月に入り、段々、日の短かさが気になってくる。...
View Article「節酒」
今週に入って酒を抜き始め、丸3日が経った。 たった3日の話しで恐縮だがそれまでの一月くらいは毎日欠かさず飲んでいたので、、、私としてはかなり 「抜いた」 感があるのだ。 しかしたった3日の事でも、朝起きた時の爽快感が全然違う。 前日に飲んだ時のなんとなくドヨーンとしたあの感じがないし、この年末は出来るだけ減らしてみようかなと思っている。 例年この時期になると、酒量が増える。...
View Article「年の瀬のトラブル」
今週の水曜日、いよいよパスタイムに新しい工作機械が搬入された。 ちょっと前のプログでご紹介した通り岩田が今まで使っていたNCフライスの発展盤のような機械で、、主に時計のケース(外装部分)の削り出しや時計部品の製作に使用する予定の機械。 既存の超小型のやつと同様に完全なコンピューター制御で、、他の誰にもいじれない、技術部長の岩田専用のマシンだ。 本体の総重量約600キロ。...
View Article「最終日」
12月28日、金曜日。 パスタイムの年内の営業も、いよいよ今日で最終日になった。 最終日のギリギリまでバタバタするこの数年と比べて、今年は年内一杯ということでお約束していたご注文品や修理品の納品も余裕を持って完了。...
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