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Channel: 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート
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「マサズ劇場」その38 商習慣

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週明けになって、ドイツの担当者から返事がきた。

 

私のメールに対する意見や感想はなく、「品物を送ったときのあなたの送り状を送ってもらえますか? 税関にある書類には、送り主が "Phong Mai" となっているので。」 と。

添付されたファイルを開けると、、、まったく見覚えのない送り状のコピー画像が添付されている。

送り主は "Phong Mai"、、、どうやらタイ人のようだが、、当然、私とはまったく関係がない。
 

どうやら、先方は全く別の荷物の照会をしているのか?

 

「この名前は、タイの人のようですね。 私の送り状ではありません。 このメールに添付した、私の送り状を確認してください」

まったく、なんなんだろーなー、、。

 

がっかりしながら、メールを返す。

 

 

実のところ、送り状のコピーを送るのは、これで3度目なのだ。

 

最初は、ヒゲゼンマイを発送した際、、次は荷物の問い合わせを頼んだ際。

 

その都度、見落としされないようにと思って 「添付画像あり」 としてたのに、、、どうやら先方は一度も見ていなかったようだ。

 

まあ、言うまい。
 

今は、とにかく話を先に進めなければいけない。

 

更に返信が来たのは、3日くらい後だったか。
 

「送り状の画像、ありがとうございました。 私は5日ほど休暇に入ります。 その間はお返事できません。」

 

その休暇は終わり、それから更に1週間ほどが経ったが、連絡はなかった。

 

荷物の行方は気になるが、あまりせっついてもと思い、私は問い合わせの代わりに、こんなメールをした。

 

 

「親愛なる○○さん。 最近、フランクフルトの義妹から聞きました。 ドイツの感染状況はかなり深刻なようですね。 なんとかクリスマスまでに状況が良くなることをお祈りします。」

 

既に報道されているように、ドイツの感染爆発はかなり深刻で、、重症患者の受け入れができなくなった一部の病院では、患者を国外に搬送する事態も起きているという。

 

日本企業の現地法人に勤める義妹も、現在は完全に出社停止の状態とのことだったから、、、もしかすると、私の担当者の女子も、ヒゲゼンマイどころではないのかも?

 

そう思い、、ひとまずこの件はしばらく放っておくことにしたのだ。

 

 

それにしても、、、これは一体なんなんだろう。

 

担当者個人の感覚か?、、商習慣の違いか?、、それとも国民性の違いなのか?

 

 

この30余年、私が取引してきた相手の多くは、アメリカ人、イギリス人、そしてスイス人だった。

 

もちろんうまくいくこともあればそうでないこともあるし、国民性なのかなぁ、なんてこともあるにはあるが、、20代の半分はよその国にいた私が驚くようなことはなかったし、むしろ気持ちのいい相手が多かったように思う。

 

しかし今回ばかりは、、、そう思ったところで、昔、ドイツの義弟が初めて来日した際に漏らした言葉が蘇ってきた。

 

 

「日本はいいなぁ、、、ドイツはサービスの砂漠です。」


ガソリンスタンドに入ればスタッフが明るく声掛けし、車の窓を拭き、テキパキと給油、勘定を済ますと、丁寧に頭を下げて道に誘導し、客を見送る。

 

ラーメン屋でもコンビニでも洋服屋でも、、私にとってはごく普通の店側の対応に、彼は相当ショックを受けていた。

 

 

まあ、お客に対する態度やサービスという点に関しては、確かに商習慣の違いはあるのだろうと思う。

 

日本には、「お客様は神様です」 みたいな風潮がいまだにあるし、かつて催事に出ていた百貨店では、客側が少々無茶をいっても課長あたりが出てきて 「お客様、ご無理、ごもっともです」 みたいな対応をしていて、欧米あたりとは対極にあるはずだから。

 

一方で、、今まで個人的に関わったことのあるドイツ人の顔を思い浮かべると、親切で気持ちのいい人が多かった。

 

やっぱりこれは、担当者の個人的な資質、、単に、私と馬が合わないということか?

 

 

 

「中島さん、ケースできました。 見てもらっていいですか?」

 

1年目の虎太郎が、導入したばかりのフライス盤で削り出した腕時計のケースを見せに来た。 

 

「おっ、、、いいじゃん。 かなりシェイプアップしたな。」 

 

 

彼が試作しているのは、開発中のオリジナルムーブメントを搭載する腕時計のケース。

 

これは既存の 「カスタム腕時計」 と同じ0サイズのムーブメントだが、文字盤は少々大きく、ケースも完全な別設計の仕様。

 

ベゼルや裏蓋にボリュームのあるコインエッジのカスタム腕時計とはうって変わって、スリムで一体感のあるケースを目指している。

 


このケースの設計に関しての一番のハードルは、このスリム化だ。

 

ムーブメントの厚みはかつての0サイズそのもので、決して薄くない。

 

それでいて、時計はギリギリ限界までスリムにしたい。

 

実際の寸法だけでなく、視覚的にも、装着した感じも。

 

 

そもそも、ムーブメントを薄くすれば時計を薄くするのは簡単なのだが、、ムーブメントの厚みはこれ以上落としたくない。

 

何故なら、このオリジナルウォッチのコンセプトは 「何世代も引き継いでいける腕時計」 だからで、、、この部分に関しては、またあらためて説明するつもり。

 

 

「もっとガンガン攻めていいよ! これ以上は絶対無理っていう限界点までな。」

 

パソコンの前で図面をいじっている虎太郎を、後ろからプッシュする。

 

「えーっ。 これ以上ですかー? もう元より2ミリ以上落ちてますけど、、これ以上となると、サファイアの曲面も変更しないと、、。」

 

「いいよ。 サファイアは複合曲面のやつを設計して特注する。 金の心配は俺がするから、とにかくやってみ。」

 

「わかりました、、、やってみます。」 

 

 

マジックで変更点を塗りつぶした、試作品のケース。

 

形状の違ったいくつものベゼル。

 

ヒゲゼンマイの件は放置されたまま、、、ケースが完成形に向かっているのだった。

 

 

 

(続く)

 

 

 

 

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