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Channel: 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート
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「回想」 その31

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皆さん、大変遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

今年も 「回想」 続きます。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願い致します。

 

                           2018 1月12日 店主

 

 

2階にスペースができてから、不体裁ながら、ジャンクヤードはかなり店らしくなった。
 

Hさんが居る一階には、手に取りやすい価格の腕時計や雑貨、アクセサリー。
 

2階には修理工房、アンティークの懐中時計、それからテーブルやサイドボードにディスプレーされた食器類など。
 

 

 

残念ながら1階と2階は直接繋がっていなかったし、2階に上がる階段の入り口はあまりに狭くて目立たないから、、お客さんが直接2階に上がることはない。
 

基本的には1階のHさんが内線電話を掛けてきて 「今から懐中時計をご覧になりたいというお客様が2名上に上がります」 なんて感じで案内するスタイル。
 

当初、2階に上がるお客さんはいいところ日に数人だったが、、、それはある意味作業に熱中し易い環境。

 

それに、開店してからずっと 「鰻の寝床」 に篭っていた私にとっては、充分に自己満足出来る居場所だったのだ。
 

 

 

一方、それまで改善してきていた財政状態は、再び逼迫。
 

何しろ最初5万円だった家賃が奥の壁を抜いてから75000円になり、2階を借りてからは225000円になって、その上、人員も増えている。
 

加えて2階の改装や、家具、工房の追加機材の調達にあたっては公庫や銀行から新たな融資を受けていたから、、その返済も含め、苦しくなるのは当たり前か、、。
 

そんなわけで、2階がオープンしてしばらくして気がつけば 「工房で悠々と時計いじりに没頭する」 という私の青写真は見事に破れ、、売り上げ確保のため、それまで同様かそれ以上に、催事の出店に奔走するようになってしまったのだった。

 

 

せっかく店らしくなったのに、、これでは何をやっているのか分からない。
 

何とかして店で腰を落ち着けていられるように、、つまり、店の売り上げだけで支払いが出来るようにしたいのだが、、。

 

 

久しぶりの買い付けに出掛けたシカゴで、ケース修理屋のボブさん(シカゴの友人をご参照下さい)とその話しになった。
 

彼のうちの近所の 「OLD TOWN」 という安酒場。

 

止まり木に全部入って7~8人、 その他は小さな2人掛けのテーブルが2つあるだけの小さなバーで、カウンターの向こうにはよく太った金髪のおねえちゃんが一人のみ。

 

買い付けの度に何回か寄るから、、、肉屋のパット、電機屋のジェリー他、常連客の顔もいくらか覚えた。

 

 

 

「マサ、だから前から言ってるように、修理を受ければいいんだよ。 もう充分に仕事が出来るようになってるんだから、売ってる時計の修理だけじゃなくて、修理品を預かるようにすればいいんだよ。 」
 

確かにその話しは、彼から繰り返し言われていたのだ。
 

 

その前年くらいから、シカゴに行くときはいつもボブさんの家にお世話になるようになっていた。

 

外に用事のない時は、いつも地下室の作業場で一緒に仕事する。

 

彼は、全米中から送られてくるケース(時計の外装部分)の修理を一人でやっているのだが、、、依頼者によっては、同時にムーブメント(中身の機械部分)の修理も希望する場合がある。

 

そんな時、ムーブメントが専門外のボブさんは周辺の時計屋にその都度修理を頼んでいたのだが、、、私が泊まっている時は私がその場で修理すれば話しが早いし、仕事もスムーズに進む上、私としても一週間も二週間も泊めてもらっている上にケースの修理を教えてもらったりすることに対する恩返しも出来て、ちょうど良かったのだ。

 

 

「お世話になってるからいい、って君は受け取らないけど、、あの修理代だって、俺はちゃんとお客さんからもらってるんだ。 そう言っちゃなんだけど、結構な金額だよ。 日本でも充分ビジネスになる筈だよ。」

 

私の返事はいつも決まっている。

 

「店の時計なら万が一壊してもどうってことはないけど、、、人様の時計となるとそうはいかないよ。 どうにも気が乗らないんだ。」

 

でも連発したバーボンのせいか、いつになく熱っぽいボブさんは、、その晩は引き下がらなかった。

 

「マサ、俺のお客の時計だって、人様の時計じゃないか! 同じことだろう? もう君はやってるんだよ!」

 

「まあ、そう言われればそうなんだけどな、、。」

 

 

「WHEN YOU GOTTA DO, YOU GOTTA DO. (やるときゃ、やらなきゃ)  ぐへへへぇー!」

 

肉屋のパットが変な調子を付けてそう言うと、他の連中が皆、一斉に大笑いした。

 

きっと何かの例えなのだろうが、、、私にはよく分らない。

 

ボブさんは何か思案しているように、宙を見上げていた。

 

どう言ったら煮え切らない私を説得出来るか、考えていたのかもしれない。

 

 

修理品の受付け、、か。

 

その晩は、私もかなり酔っていたと思う。

 

馬鹿馬鹿しく大笑いしている連中の中、一人真面目な顔をしているボブさんの横で、、、私は最初から除外していた選択肢について、初めて真剣に考え始めていた。

 

 

(続く)

 

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