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Channel: 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート
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「マサズ劇場」 その5

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新春のお慶び申し上げます。
 

皆さん、今年はどんなお正月をお過ごしになられたでしょうか?

 

マサズ パスタイムは、一昨日、6日の水曜日に始動いたしました。

 

本年もお付き合いの程、何卒よろしくお願いいたします。

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1月8日、金曜日。

 

始業してから今日で3日目ということになるが、店の中はまだなんとなく落ち着かない。

 

ざっと見渡せば、年末に出した粗大ゴミは、まだパソコンコーナーの端に寄せてあるまま。

 

追加購入したパソコンもデスクが搬入されるまでは置き場がなくて、新人の作業台の上にポンと乗せてある現状。

 

 

今年は、何かと大変な年になる。

 

予想していたこととは言え、2回目の緊急事態宣言が昨日発令された。

 

こうなると来店される方が更に少なくなるのは間違いないから、それでも不便がないようにしなければ。

 

 

「I さんの時計、いつ受取りにいらっしゃるのかな?」

 

「さっき電話いただいたんですけど、今回はご自宅に送ることになりました。 珍しいですよねー。」

 

寺田も意外そうな顔をしている。

 

Iさんは都内在住だが、この20年近くのお付き合いの中で、配送になったことは一度もなかった。

 

去年の緊急事態宣言中は普通に来店されていたのだが、、、やはり今回は、より慎重にならざるを得ないということなのだろう。

 

 

幸いなことに、うちの仕事は対面しなくてもできると言えばできる。

 

そもそも地方のお客さまの場合は、もとから電話やメールのやり取りで、時計はもっぱら配送。

 

かなりの頻度で長くお付き合いいただいていながら、一度もお顔を拝見したことがない方もいらっしゃるくらい。

 

 

それにしても、人気(ひとけ)がないというのは、なんとなく気持ちが沈む。

 

なにしろ店内で聞こえるのは、 「タン」 というタガネの音、「ブーン」 という旋盤のモーター音、、そして 「クソ―」 とか 「チッ」 とかいう職人の湿った声、舌打ち。

 

これに時折り電話の呼び出し音、そして応対する寺田の声が加わって、一日が終わる。

 

 

「佐々木君、山形は大雪で自衛隊出動だってよ! おっかさん、大丈夫なのか?」

 

「あー、、下の方はすごいみたいですけど、うちの方はそんなに降らないんですよ。」

 

「ホントー? でもあっちじゃ、冬は2階の玄関から出入りしたりするんだろ?」

 

「いやいや、、まあそういううちもありますけどー笑、、。」

 

作業が一段落ついた時には、そんな無駄話でもしないと気が滅入るほど。

 

 

もっとも来客がなければヒマというわけではなく、やらなければならないこと、進めなければいけない仕事は、山ほどあるのだが、、。

 

 

 

「あーーっ、、また剥がれた! もー、ホント、ムカつく!」

 

奥の水場から戻ってきた辻本が、天を仰いで呻いた。

 

年末に頼んだ赤銅ダイアルの製作はこれまでになく難航していて、一枚目は失敗、そして2枚目の文字盤も、これで3度目の仕上げ直し。

 

行程的には、手彫りした微細な文字や数字に白い焼き付け塗料を入れて焼き付け、文字盤全面をフラットに擦り落した後に薬剤で煮て黒染めする、というもの。

 

言葉にすると簡単だが、、、最後の黒染めの行程で薬剤を沸騰させるため、焼き付け塗料の一部が剥がれ落ちるというトラブルに見舞われるのだ。

 

剥がれ落ちたら再度塗料を入れて焼き直し、擦り落して黒染めに進むのだが、これができるのはせいぜい3回目まで。

 

それ以上繰り返すと、彫った文字や数字が浅くなって、使えなくなる。

 

実際に、1枚目は何日も掛けて彫った末にそうやって使用不能になったのだった。

 

 

「シルバーのクッションケースに赤銅の黒文字盤」 のカスタム腕時計は、絶対にいいものになる。

 

そう確信して製作を指示したのは、昨年の12月始め。

 

クッションケースの方は既に岩田が作り終えているから、あとはこの文字盤ができれば完成なのだが、、。

 

一週間で仕上がることもあれば、二週間やっても出来ない時もある。

 

この辺はやはり、手作りゆえの難しさ。

 

そうかといって、塗装の黒文字盤みたいな大量生産型の品物じゃ満足できないんだから、、やはり辛抱するしかない。

 

 

 

文字盤がまたやり直しになるかもしれないと知った私は、、だんだんイライラしてきた。

 

「寺田くん、パソコン台はいつ来るんだっけ? このままじゃゴミ置き場みたいでどうしよーもねーよ。」

 

「予定では明日来ることになってるんですけど、、、もしかするとちょっと遅れるかもしれませんね。」

 

「あそー。 こっちの粗大ごみはいつ捨てられる? いらない机も、早いところ取っ払っちまおうぜ!」

 

「そっちはえーっと、小さく壊すと2ポイントくらいで、他のと併せて10ポイントになったら回収してもらえるんですけど、、そのままだと」

 

「ん? なんだそのポイントって? ちっちゃければいいのかデカけりゃいいのか? なんだか知らねーけど、なんでもいいから早くしてもらって!」

 

「わかりました💧」

 

八つ当たりされた寺田は、銀縁メガネの奥で目をショボショボしている。

 

「フー、、。」

 

コーヒーを淹れて、ちょっと一息。

 

ネットニュースを見ると、、、「東京都の新規感染者2日連続の2000人越え」 「医療崩壊迫る」 

 

このところ、こいいった民衆の不安を煽るような報道が続く。

 

「そんなもん、具合が悪くないのまで追っかけまわして一生懸命検査すりゃー、増えるに決まってんだろ、ったく!」

 

イライラを鎮めるつもりが、、、逆効果になった。

 

 

隣のパソコンの前では、一段落ついた佐々木が、コンビニ弁当をパクついていた。

 

「おまえさー、ダイエットとかいって、そんなコンビニ弁当ばっかり喰ってたら、そのうち死ぬぞ!」

 

「いやー、本当はちゃんと作ればいいんですけどねー。 昨日もラーメン食っちゃったんですよ、。 へへへ、、。」

 

「ちゃんと体重計買ったのか? イワタニの。 」

 

「あ、タニタですね。 いやー、まだ買ってないんですよ。」

 

「イワタニだかタニタだか知らねーけど、それじゃあ、体重が減ったかどうか、分かんねーじゃんか」

 

「へへへ」

 

 

「しかしなー。 医療崩壊医療崩壊っていうけど、、お前、なんで医療崩壊しそうか知ってるか? 」

 

「いやー、、。」

 

「それはな、コロナを第2種の感染症にしたままだからそうなるんだよ。 第2種ってーのは、結核とかSARSとかMERS みたいな、かかったらホントにヤバいヤツのカテゴリーだ。 普通のインフルエンザなんか、毎年一万人以上死者が出てんのに、それでも第5種なんだぜ。 それもワクチンや治療薬があってその人数だ。 コロナも同じ第5種にすれば、いちいち軽症者を入院させたりする必要なくなんだから、病床が埋まることもなくなる。 医療が大丈夫なら、非常事態宣言なんか、必要なし。 そうだろ?」

 

「あー、そうなんですかねー、、、」

 

「そうすりゃ、税金の無駄遣いだってなくなるぜ。 大体な、飲食店の支援だって、大勢の従業員を雇用してるような事業者も一人でやってる個人事業主も同じ一日6万円なんて、あり得ないだろ? 毎月何百万も給料や家賃払ってる店が6万もらって時短したら、潰れちゃうっつーの。 反対に、もともと一日6万も売り上げがない店からしたら、時短どころか一ヶ月丸っきり休んで寝てても180万入ってきてラッキーってなもんよ。 」 

 

「うん。 それは、おかしいですよね、、へへ。」

 

「だろ? ちょっと、Googleで首相官邸 意見 って検索してみな」

 

「え? こうですか? あー、なんか出てきましたね。」

 

「そう。 そこに、お前がおかしいと思う事があったら、全部書いて送りゃあいいんだよ。 俺もあんまり腹が立ったから、ゆうべ送ったんだ。」

 

「へーー。」

 

「おかしいっていやー、ガースーの爺さん、変異したウィルスの発生源になった国からのビジネス入国は停止するって言ってたと思ったら、舌の根が乾かねーうちに、やっぱりしばらく継続するって言いだしたな。 おそらくオリンピックの開催云々と関連があんだろうけど、、感染者を減らそうと本気で思うなら、飲食店の時短なんかよりそっちを先にやるべきだろ? 違うか?」

 

「、、ですよね。」

 

「そーいやー、ガースーも秋田じゃんか。 なんとか言ってやれよ。 同郷として恥ずかしいですってな。」

 

「いやー、、別に僕はあの人知りませんから、へへへ。」

 

「そりゃそうだよな。 ははは。」

 

 

2人目の老害犠牲者になった佐々木はそそくさと弁当を片付けると、、、一目散に、作業台に戻っていったのだった。、

 

 

 

(続く)

 

 

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