「すみません、こっちにお願いします。 この鉄板が敷いてあるところに。」
今週、ずっと納期の延びていた機械が、ようやく納品された。
フライス盤の追加に関しては今年の春から検討を繰り返したのち、、最終的に大型のを1台入れるか、小型のを2台入れるかという選択になったのだが、、私は最終的に、後者を選んだ。
これまで、NCフライスの作業は岩田が一人で担当していた。
だから、例えば受注しているケースの加工中に別の案件でフライス加工の必要な部品が必要になったりすると、ケースの製作が終わるまでの数日間は、他のことをやりながら待っている必要があったのだ。
機械を増やして、全員がおのおのNC加工出来るようになれば、こういう無駄はなくなる。
オリジナルムーブメントの製作においても、同様。
歯車を作っている岩田の横で他の者が地板や受け板を、また別の者がケースの製作を進めるというようなことができたら、断然、効率が上がる。
もちろんそれはみんなが機械を使いこなせるようになればの話しだから、しばらくは時間が掛かるだろうが、、、連中はみんな興味深々だし、きっとなんとかなるだろう。
それにしても、、店はいよいよ手狭になってきた。
引っ越して来たときは想像もしなかったほど、機械、パソコン、部品棚その他がギッチリで、、まさに足の踏み場もないといった感じ。
使用頻度の低い物を片っ端から地下収納に叩き込んで、なんとか形にはなったが、、。
春先に手をつけ始めたトゥールビヨンムーブメントの懐中時計は、何度かの設計・仕様変更を繰り返した後、プロトタイプがほぼ出来上がってきた。
これに関しては、今後細かい仕上げを詰めたのち、ケースや文字盤のデザインを決めて、最終段階に入る予定。
一方、何年も前から始めたり中断したりを繰り返してきた腕時計のムーブメントの方も、7割方までは形になってきた。
ヒゲゼンマイの入手には少々手間取っているが、それが解決すれば、ゴールはそう遠くないと思う。
「どうだ? いけそうか?」 「ええ、、まあ、たぶんなんとか、、へへへ。」
新品のフライス盤の横で、佐々木がプログラムの練習をしている。
新人の篠原と清水は学校でいくらかやっていたようだけど、先輩格の佐々木や真下は、まったくの初心者だ。
ブブ―、、ガリガリ、ドカン!
「あ、突っ込んだ!」
佐々木の入力したプログラムの数値が間違っていたようで、、刃物が品物に突っ込み、機械が停止した。
「あほか! だからちゃんと20回は確認しろっていっただろ、20回やったの?! ちゃんとノートに書いて、声に出して確認! 」
岩田に叱られながらも、、、なんだかんだ楽しそうにやっている。
若い連中は、覚えが早い。
機械を動かすプログラムの入力作業なんかは、ゲーム感覚なのかもしれない。
「はい。納期に関しては、現在のお預かりですと1ヶ月ほど、、だいたい11月の末~12月のはじめくらいになる見込みですね。」
修理のお問い合わせの電話に対応しているのは、寺田。
そのやり取りを聞いて、あー、もうそんな時期になったかと気が付いた。
本当に、なんで年々時の過ぎるのが早くなるんだろう。
こっちは進んだと思ったら後戻りしながらヨチヨチやってるのに、、、時間だけは無情に先に進み、一秒たりとも戻ってはくれない。
「痛てててーー、、クソ―、、、ミシミシッ、ボキ、、あっ、、、!」
昨夜、グラグラしていた左上の奥歯がついに倒れた。 というか抜けた。
50を過ぎてから歯科矯正をはじめて4年ほど前に終わったが、、そのあと上の奥歯がグラグラし始めて、最近は食事のたびにイテテ、なんてごまかしごまかしやっていたのが、とうとう限界点に。
ゆうべ、どうにも我慢できなくなって根性を決め、自分で引っこ抜いてしまった。
今朝駆け込んだ馴染みの歯科医曰く 「うーん。 ブリッジにすると他の歯に負担が掛かるしねー、、隣の歯もちょっと揺れてるから、、、とりあえず部分入れ歯で様子みますかね。 まあ、ある程度は年齢的なことだから、仕方ないですね。」
年齢的な事、か。
あーあー、やだやだ。
昭和38年、早生まれの私は、あと一年ちょっとで還暦を迎える。
あいかわらず毎週釣りには行っているし、この間までまだまだ先は長いと思っていたが、、、このところ膝が痛くなったり歯が抜けたりなんてやってるうちに、いつか、とか、そのうち、なんて言ってらんないなーと感じるようになった。
できなくなる前に、やりたいことはやっておかないと。
10年後か、20年後か、?
事故も大病もあり得るし、こればっかりは分からないが、、、いつか棺桶に入る時に 「あーー、これで人生ゲームもおしまいか。 もっと、あれもこれもやっとけば良かったなぁー」 なんてならないように。
ようやく、重い腰を上げたところです。
さてさて皆さん、、そろそろ本気出しますよー (笑)
(続く)