自宅の屋根裏部屋を、整理し始めた。
このところ休みのたびに風が吹いて海に行けず、まあこんなときしかできないからと手を付け始めたのだが、、何日やっても、なかなかはかどらない。
屋根裏部屋の半分は時計の修理スペースだけど、こっちは普段、それなりにはやっている。
問題は、天井の低い、残りのスペース。
こっちは釣り道具や家族の持ち物、その他古いギターや雑多なガラクタが混在するカオスなスペースで、、、奥の方はかがんで入らなきゃいけなくて、億劫だ。
ガラクタと言えども、残してあるものはなんだかしらの想い出のあるものばかり。
特に、昔の手紙や写真なんかはいちいち当時を回想してしまい、そのたび手が止まる。
この頃は俺もまだ若かったなー、怖いものなんかなかったなーとか、あ、このみんなで写ってる真ん中の子、可愛い子だったなー。 今頃どうしてんだろ? 確か俺といくつも違わなかった筈だから、、、今頃は結構なオバさんか!なんて感じで。
「ごはん、どーすんの? 食べるのー?」
「あー、食べるよ。 腹へった。」
下から上がってきたカミさんの声にこっちも返した。
1、2階をバカみたいな吹き抜けにしたせいで、家中どこにいても声が聞こえるのが、こういう時は便利。
でも、深夜に友達とテレビ電話してる長女の声は響きまくるし、屋根裏で寝ている私のイビキすら聞こえると言われる始末で、、どっちがいいのか分からないが、。
さてと、飯ができるまで、写真の整理の続き。
アルバムに入っていない雑多な写真をひっくり返していると、自分が赤ん坊の頃の写真が出て来た。
娘のように若いオフクロが、赤土の道で自転車の荷台に私を乗せている。
あー、そうだ。 想い出したぞ。
この家の前には、周囲の家が共同で使っていた井戸があって、、、いつだか、そのポンプの下で遊んでいると近所の誰かにハンドルを振り下ろされて、頭からザーっと温かい血が出て来たことがあった。
そういやぁ、従弟がすっ飛んできて 「マサにこんなことしたのは、どこのどいつだ!」 って叫んでたっけ。
でも10も年上のその従弟とは大人になってから仲違いしてしまって、、、もう30年近く会っていない、。
とりとめもないことを想い出していると、知らず知らずのうち、自分の半生を振り返る。
小学校に上がる前だったか。
イソップ童話の絵本にあった、夜の砂浜の絵。
何の話しだったのかは憶えていないけど、、細長い巻き貝、擬人化されたカニ、夜空にはお月さまがいて、これで海が好きになった。
学校に上がってからは、人並みに少年野球をやったり、卓球やテニスに明け暮れた頃もあったけど、やっぱり海が好きでダイビング屋になって、、でも気が付けば何10年も時計屋をやっていて、何も後悔はない。
俺の人生っていうのは、テキトーなもんだなー、と。
手紙の整理に入った。
いくつか読み返しながら見ていたら 「中島正春 様」 なんて封書が目に入った、、、一通、二通、三通、、どれも正春。
俺の名前は正晴なんだけど誰だろーと思って中身を見ると、、、差出人は、知り合った頃のカミさん!
ここにもテキトーな奴がいたか。
まあ、だからお互いやってられんだろうけど、、。
「ねぇー、ごはん、どうすんの? さめちゃうよー!」
「ああ、もうちょっとだけー。」
奇しくも今日は、59度目の誕生日。
あとどのくらい残ってる人生か知らないけど、、まあ、最後まで精いっぱいやるしかない。
周りに迷惑かけないように。
写真の山の整理に戻った。
あ、遺影ならコイツかな。
一枚の写真を見つけた私は、それをアルバムのおしまいにそっと挟み、、ドタドタと階段を降りたのだった。
(続く)