「どうだ? 仕上げの方はメドついたか?」
「まあ、そーっすねー。脱進機周りや歯車は一通り終わったんで、、あとは受け板の仕上げが終われば、。」
「こっちはどうだ? クロノのプロトケース、いけそうか?」
「ええ、たぶん大丈夫ですね。 一台目はプッシャーの角度が閉じすぎてて作動感がイマイチだってんですけど、2台目はそこを変えたから良くなりそうです」
「そうか。よし。 そいじゃー、たまには一杯やってくか?」
「あ、はい。」
「行きます!」
遅くまで居残っていた虎太郎と佐々木を連れて、久しぶりにハモニカ横丁にくり出した。
うちは残業みたいのはないから定時に帰ってもいいんだけど、、、若い連中は、店が閉まった後おのおの自由に練習したり、やりきらなかった仕事のキリをつけたりしている。
職人っていうのはある意味アスリートみたいなもんで、人より少しでも腕を上げたければ練習するしかないし、それは当然、いい意味で自分に跳ね返ってくるもんだから。
かつては、店を閉めてからみんなが居残り、黙々と深夜まで作業しているような時代もあった。
その頃はいつも全員で晩飯を食っていたけど、そのうち岩田や辻本が家庭持ちになり、人数が増えて遅番と早番の交代制になったりしてから、そういう機会がめっきり減ったのだ。
そこへ来て、この2年余りはこのコロナ騒ぎで、。
「とりあえず生。それと、白身のカルパッチョと下田さんちのポークのカツレツかな。 ん、そっちはどーする?」
「えーと、、ボクはジントニックで。」
「あ、じゃあ僕はレモンサワーを。 へへ。」
「食い物はどうする? 適当になんでもジャンジャン頼んでいいよ。一人500円までな。」
「えーっ、それじゃ既に超えてるじゃないですかー!」
「ははは。 ウソだよ。」
「ジントニックおかわり下さい。」
「あ、僕も今度はジントニックにします。へへへ。」
最近の若者にしては2人ともわりとイケる口で、特に秋田育ちの佐々木は、アパートでも日本酒で晩酌しているようだ。
何杯目かを頼むころになると、話しは休みの日の過ごし方になった。
どうやら2人とも特になにかを趣味にしている感じではなく、休日もゲームをやったり時計をいじったりしているようだ。
「中島さんは、毎週、釣り行ってるんですか?」
「そうだよ。天気が良けりゃあ毎週ね。上の子が生まれた頃からずっとだから、、もう20年以上になるかな。」
「へー、釣りかぁー。 やったことないなー。」
「ん? 虎太郎は釣りしたことねーの? 釣り堀くらいあんだろ?」
ちなみに、虎太郎は東京育ちだ。
「一度もないですねー。 っていうか、言われてみると、釣りどころかまともに海を見たことすらないです。 ディズニーランド行ったときに東京湾を見たくらいで、。」
「ホントかよ、。 佐々木君は?」
「いやー、去年はじめて学校の時の友達と川にいってやったんですけど、、みんなやったことないからやり方がわからなくて、、まったく、なーんにも釣れなかったですねー。 あ、お代わりお願いします。」
釣りしたことなければ、、、まともに海を見たこともない。
私が子供の頃とは、まったく遊びの環境が違うということか、、。
「あ、鎌ちゃん、俺はバーボン、ダブルロックね。 そっちは?」
「ボクもジントニックお代わり下さい」
「あー、僕ももう一パイ。へへへ。」
佐々木はレモンサワーのあと、ジントニックを10杯ほど飲んでご機嫌だ。
「そんじゃあさ、今度、釣りに行ってみるか?」
「あ、いいですね。行ってみたいです。」
「いやーー僕もですねー、、へへへ、、なんでもいいから、一度くらいは魚を釣りあげてみたいんですよー。」
「そういえば、、」
帰りの電車で、スマホのカレンダーとにらめっこしていた私は、ふと思った。
もう何年も、社員旅行やってないなー。
思い出せば、辻本が入った15年ほど前ころまでは、ちょいちょいみんなで出掛けていた。
定休日に日帰りで釣りにいくこともあれば、店を閉めて、伊豆大島やグアムに社員旅行したこともあった。
そもそもその頃は、毎年2月に全員でフロリダに時計の買い付け旅行に行くのが慣例だったし、何かとワイワイしていたのだ。
考えてみたら、辻本から下の連中は、入社以来どこにも連れて行ったことがない。
よし。 どうせなら、みんなで行くか!
------------------------------------------------------
ということで、ちょっと先の話ですが、今月の19日(火)と20日(水)は、釣り&海水浴の社員旅行になりました。
恐縮ながら、店は2日間の臨時休業です。
今月のご来店を予定されていらっしゃるお客様「こんな暑い中わざわざ来たのにバカヤロー」となりませぬよう、くれぐれもご注意くださいませ!
(続く)