店の中の様子が、大分変わってきた。
来年から新たなスタッフが加わるようになったことは、先週お伝えした通り。
その2人分の作業スペースを確保するために、店内の模様替えをしている。
「うーん、テーブルをこっちに持ってきたら本棚が使いにくくなるしなぁ、。 かといって、本棚を移す場所も無いし、、。」
「一人分の作業台だけ前に持っていったらどうですか? そうすれば本棚は動かさなくていいから。」
「でもそうすると、初めて来たお客さんが作業台の前を通り抜けなきゃいけなくなりますよ。 そいつはちょっと、、。」
皆でいろいろ考えた挙句、最終的には今まで応接スペースだったところに2台の作業台を並べ、2つの応接用テーブルを見せの前方に移すことになった。
結果、時計を陳列している横長のショーケースはかなり入り口の方に追いやられ、ショール―ム的なスペースは縮小。
まあフリのお客様が少ないうちの店頭では、それほど問題にはならないかな、と。
パスタイムは、決して狭くない。
キッチンやトイレ(やたらに広い)を含めた総面積は、50坪。
そのうえ、店の後方には四畳半くらいの地下室があるから、すぐに使わない道具や資材などは全てそこに収納できる。
30年前に始めたジャンクヤードなどたったの5坪だったから、、、今は10倍広いわけだ。
一般的な修理工房やメーカーの作業スペースの写真を見るととても整然としていて、かなりの人数が効率よく仕事しているようだ。
壁に向かって一列に作業台が並んでいるか、もしくは部屋の真ん中に四角く向かい合うか。
参考にしてみようかなと思ったこともあるが、、上手くいかなかった。
うちの場合、それぞれの作業台に旋盤や顕微鏡、ちょっとした部品や小道具の収納棚などが必要で、どうしても1人分のスペースが大きくなるのだ。
特に彫りものや外装のロウ付け修理をやる辻本は、火を使うスペースに加えて文字盤製作用のローズエンジン(ギョーシェ彫り用の旋盤)が2台、その後ろにはベゼルの加工などに使う中型の旋盤が一台あったり。
店の奥にいる岩田など、組立て台と旋盤の横に2台のNCフライス盤と2台のパソコン、工具棚、その後ろには中型のボール盤がある状態で、、私と合わせると3人で相当なスペースを食う。
せめて他の若い連中の分だけでも、組立て台は組立て台、旋盤は旋盤みたいに並べていけば省スペースになるのだが、、アンティークの時計修理は、組み立てている途中でパッと旋盤で車軸を磨いては組み立てて、具合が悪いとまた旋盤で磨いてみたいな作業が多いから、そのたびにいちいち別の場所に移動していたんでは、仕事にならない。
結果50坪の店に8人で一杯一杯になってしまうわけだが、、、まあ贅沢はいえまい。
話しは逸れるが、、、うちでは昔から、自分の作業台を皆自分で作る習わしになっている。
最初は20年ほど前、東村山から吉祥寺に移ってきたときに、岩田が作ったのが第一号。
それまでは、リサイクル屋で見つけて来たスティールの事務机の下に、ブロックを咬ましてかさ上げした作業台だった。
それ以降は新人が入る度に、岩田の図面をみながら大工仕事をして自作するようになったのだ。
この大工仕事の様子を見ていると、それぞれの性格が見えて面白い。
ある者は板に大雑把に線を引き出し、とりあえずギコギコと切り出す。
切り出した板を合わせると結構互い違いになったりするが、細かいところは最後に削ったりして辻褄を合わせる。
別の者は、慎重に慎重に線を引いては、消しゴムで消し直す。
下書きに時間が掛かる分出来上がりが正確で修正作業が少なくて済み、全体の作業時間は変わらない。
それならそれでよし。
いずれにせよ、時計屋志望で入ってくるのだから特別に不器用なのはいないが、、世代なのか、中にはろくにノコギリを使ったことのないという若者がいたりして、出来上がりまでの時間、仕上がりは様々だ。
但し、慣れているかどうかは別として、木工も金工も、基本は同じ。
仕事の仕方には、間違いなく性格が出ると思う。
ちなみに元々の私はというと、、、下書きもロクにしないで、とっとと切りだす方。
最後に辻褄が合えばいいが、、、大抵は合わなくなって、何度もやり直すタイプか。
そういうものの進め方が如何に時計屋に不向きか、イヤと言うほど身に沁みたこの30年。
「あ、バカ! そんなに急ぐな。 面倒なことこそ、先にしっかりやっておけ!」
失敗に失敗を重ねた挙句の、処世術か。
時計をいじっている時の私は、、いつもそんな風に自分の性格を封印しているのだ。